柔らかさと、体温。それと僅かな湿度。


唇に感じたのは、そんな感触だった。


でも・・・それ以外の認識はできなかった。


自分の唇に押し付けられる物が何なのか。


唇をふさがれるこの行為が、何を意味するのか。


だって、頭の中は果てなく真っ白で。


そして奇妙なほど生ぬるい、浄火の荒い息が不可解過ぎて。


だから何も・・・分からない。


(門川・・・くん・・・)


門川君、門川君、門川君・・・・・・。


唇をふさがれたまま、あたしの体はガチガチで指一本動かない。


だけど、視線は無意識に彼を探し求める。


そしてあたしの目は、彼の姿を見つけ出した。


ポカンと口を開いて、目を丸くして呆然と立ちすくむ姿を。


きっと彼は驚愕しながらも、この状況が何であるのか理解していない。


自分自身が何に衝撃を受けているのか、分からない。


分からないのに、彼は。


あたしと浄火の姿を凍り付く様に、引き攣った顔で凝視していた。