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私がおじいちゃんから聞いた話は、ごくわずかなものだった。


佐藤くんの本当の母親は、佐藤くんが7歳のころ、ちょうど小学2年生になる前にいなくなってしまったこと。


ある日、突然消えて、残されたのは離婚届の紙だけだった。


それをきっかけに、佐藤くんは女嫌いになってしまったこと。


ようやく、ほとぼりも冷め始めたころ───佐藤くんのお父さんの再婚の話が持ち上がった。その時、佐藤くんは小学校6年生だった。


再婚した相手、薫さんは佐藤くんのお父さんと同じように一度離婚していて、子どもを連れていた。佐藤くんよりも8つ年下の女の子。


……私なら、どう思うのだろう。


7歳なんて、まだ母親に甘えたい時期なはずなのに。いっぱいの愛情をもらうはずなのに。



佐藤くんは、どう思ったんだろう。


私がもし、佐藤くんならきっとこう思うはずだった。




───お母さんに、捨てられてしまったんだ。