山道を戻る間も、竜に締めつけられた身体がずきずきと痛んだ。



現実には存在しない竜に出会い、さらにその竜に締めつけられそして会話をして……
そう考えれば、やはりこの夢は楽しい。
少し現実過ぎる点があるのが難点だが、こんな夢はめったに見られるものではない。
身体の痛みも私には楽しみの一つのように感じられた。

通りがかった村は、もう皆眠っているようで、村全体がしんと静まり返っていた。



(こういう所も現実的だな……)



そういえば、私も少し眠気を感じてきた。
だが、我慢出来ない程ではない。
村人達が、無事に戻って来た私の姿を見たらどんな反応を見せてくれるのか…
それが見せられないのは残念だったが、この夜更けにわざわざ一軒ずつ戸を叩いて回るわけにも行かない。
私は、村人達に会う事は諦めて、さらに先を急いだ。



歩いてるうちにだんだんと空が白んで来た。
それと同時に、私の瞼もどんどん重くなってきていた。
しかし、この森を抜ければあの扉のあった場所に出るはずだ。
私はあくびを噛み殺しながら、あと少し!と自分に何度も言い聞かせながら歩き続けていた。




「あった……」



森を抜けた時、私はあの扉を見つけた。
出て来た時は気が付いていなかったが、そこは小さな祠の裏側になっていた。
表に回ってみると、少年と一緒に参ったあの祠にそっくりだった。
祠の前には賽銭箱と鈴があり、格子戸の中は暗くて良く見えない。
そっくり同じだ。

再び、裏に回り、扉を開けると、そこには驚いたような顔をしたあの少女が立っていた。



「どうされましたか…?」

私に声をかけられてやっと少女は我に返ったようだ。



「あ…あの…」

「私が帰って来るとは考えていらっしゃらなかったのですね…」

「………」

どうやら図星だったようで、少女はそっと視線を逸らせた。
私は懐から赤い宝石を出すと、それを手の平に乗せて少女の前に差し出した。



「これは、まさか…!!」

「……そう…竜の瞳です…」

そう言った瞬間、少女は私の足元に平伏した。



「立って下さい。」

私は少女の腕を取り立たせると、少女に赤い宝石を手渡した。



「……本当にありがとうございました。
感謝致します。」

少女は私に向かって深深と頭を下げると、神殿の中を滑るように歩き出した。