長文読解は大教室での講義だったので、

ノートを貸して欲しいと言っていた男の子と
顔を合わせることもなかった。



蒼介さんはお昼まで
もう一コマ受講してるから
その間に私もなにか受けようかな?


そんなことをぼんやり考えながら
歩いていると…


「あの、すいません。

ちょっといいですか?
これ………」



と、後ろから声をかけられた。



「す、すみません。
あの、私!

つきあってる人がいるので!
ご、ごめんなさいっ!」


「え?」


「へ?」



振り返ると、

K高校の制服を着た小柄な男の子が
キョトンとした顔をして

立っていた。


「予備校のIDカード落としてたから。

これないと
自習室使えないでしょ?」


そう言ってその男の子は
私のIDカードを手渡してくれた。


受け取ったIDカードを見つめながら、
サーっと血の気が引いていく。


なんだか、とんでもない勘違いを
してしまったような……



「ご、ごめんなさいっ。

わ、わたし、

あの、とんでもないこと
言ってしまって……」



アワアワと挙動不審になりながら、

慌てて頭を下げる。



「うん。言ってた。
びっくりした。

大丈夫、
僕、好きな子いるから。」



「す、すみませんでしたっ!
そ、それじゃ」



恥ずかしいし、知らない人だし、

頭を小さく下げて、

その場をすぐに去ろうとすると、



「なにを受講してるの?」


とたずねられた。




「長文読解…です」



「それだけ?」



「は、はい……
うちの学校、付属だから。」



それを聞くと
その男の子はピクリと眉を動かした。



「受験しないなら、
なんでこんなとこ来てんの?

みんな真剣に
勉強してるんだけど?」



本当にその通りだ……



「す、すみません…」



と、もう一度謝ったそのとき、

その男の子が手にしている
数学演習のテキストに目が止まった。


ちょうど蒼介さんを待っている間に
受講しようか迷っている講座。