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にわかには、信じがたいことだった。

この世界に、彼女がいないことが。


……いや、本当は薄々気が付いていたのかもしれない。

〝彼女の記憶だけ〟が抜け落ちている。病気かもしれない。俺が何かの病気にかかっていて、もしくは何か事故があって記憶を、無くしてしまった。

そんな、都合のいいことだって考えた。


でも、それはおかしい。

だって俺の周りで、そんなことを言うやつは一人だっていないから。


もし俺が大きな事故に遭ったとして、それをほかの奴らが知らないのは、おかしい。

いつものように朝起きて、ご飯を食べて、歯を磨いて、隣の家の幼馴染から嫌味を言われながら登校して。


そんな変わりない日常が送れるなんて、おかしい。



───なら。


なら、消去法で残るのは、一つだけだった。