ケータイ小説 野いちご

声を聞くたび、好きになる

5 行き着いた深愛



 男性とは無縁だった私の学生時代。免疫のない私にとってこういう時間は刺激が強すぎるけど、海音は涼しい顔でそばにいる。いかにも慣れてる感じで。

 彼が担当編集になってくれたのはとても嬉しいけど、なぜ、一介のイラストレーターにここまで親切にしてくれる?

 小学生や中学生の時から恋愛経験を積む人もいるらしい。海音はそういう類の人じゃないだろうか?

「海音って、中学生の時くらいからこういう感じなの?女の人といても冷静っていうか……」

 今までからかわれていた分、私はわざと意地悪な言い方でそう尋ねた。それに、海音みたいにかっこいい人は昔からモテていたんだろうし。

「冷静?これでもドキドキしてるんだけど?」

 いじめるように、海音は目を細める。

「それに、中学の頃は絵を描くことに集中してたから、恋とは無縁だった」
「そうなの?」

 海音、やっぱり絵に興味があったんだ。なんか分かる気がする(恋に無縁だったっていうのは疑わしいけど)。

 目を見開いて興味をあらわにする私に気付き、海音は困った顔をする。

「父親が世界的に有名な画家だったんだ。家族の話では、俺は物心つく前から絵に深い興味を示していたらしい」

 そう言い、海音は父親の名前を口にした。それは、芸術関連の話題に疎い私でも知っている高名な男性を指していた。

 海音の父親が描いた絵画は、外国の上流貴族だけでなく王室の人々をも魅了しているという話だ。彼が筆を取るだけで多額の金銭が動く。

「すごい!そんな人が身近にいたら、絶対影響受けるよね」
「そうだな。父親のようになりたいと必死で、放課後は毎日、父親の管理するアトリエに通った。でも……。

 俺には父親のように秀でた才能は無かった。
 コンクールに出品しても、佳作がいいとこ。金賞は別の参加者に奪われ続けて。結局、絵画の道は諦めた。

 方向転換のつもりでアニメ関係のイラストを描くようになって、そこそこ評価はされた。調子に乗ってプロ目指して専門学校まで通ったけど、結局、才能はないって分かって、そういう系の夢は一切捨てることにした」

 海音の話を聞いて、私はモモと飲んだ時のことを思い出していた。

 イラストは好きだし上手だけど評価されない。モモはそういう悩みを持っていた。海音も昔、モモと同じ壁にぶつかって傷付いていたんだ……。

「でも、イラストや絵画に対する好きって気持ちは消せなかった。
 進路のことで考えが煮詰まってた時、同じ専門学校の友達に言われたんだ。人に的確なアドバイスをするのが上手いって。だから、出版社に就職した。

 気持ちを切り替えるのには時間がかかったけど、今は、この仕事に誇りを持ってる」

 まっすぐな瞳でそう言い切る海音は、かっこよかった。


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