【第六章】
~“理解”する日常~




 あたしが退院してから、二週間が経った。
 怪我の回復は順調で、多少動かしても痛みは殆どなかった。
 あたしってば、さすが体育会系だわ。


「俺が持つからいいよ」


 牛乳瓶の入ったケースを持ち上げようとしたら、横から久遠くんが手を出した。


「大丈夫だってば。リハビリも兼ねてるんだから」
「リハビリは他の仕事でやれよ」
「久遠くんが来る前は一人でも出来た事よ。体力落ちたらどうしてくれんの?」
「武田先生から全快のハンコ貰うまで、体力作りも他の仕事でやれ」


 松の湯の営業前。
 もう真夏と言っていい日差しの中、玄関先で言い合っているあたし達。
 そんなあたし達の横を、買い物に出掛ける人達が通り過ぎて行く。


「あ、こんちわー!」


 あたしは笑顔で手を振りながら、近所のマダムに声を掛ける。


「あぁ、こんちわ」


 マダムはそれだけ言うと、そそくさと商店街の方に立ち去った。
 あたしは、腰に手を当ててそれを見送る。


「今日も暇かな」


 そんな様子を見て、久遠くんが言った。
 あたしが退院してきたあの日以来、松の湯に来るお客さんは激減していた。


「こう暑くちゃ、お風呂であったまる気にもなれないでしょ」


 あたしはそう言って、よっこらしょと牛乳瓶ケースを持ち上げて松の湯に入る。


「ったく・・・」


 久遠くんは肩をすくめて、あたしについて来る。


「さぁてと、次は」


 持って来た牛乳瓶を、冷蔵庫に入れる。
 ついでに、賞味期限の近い品物を抜き出して。


「その牛乳でシチューでも作るか。暑いけど」
「うん」


 ・・・お客さんが来ないからなぁ。
 あたし達二人とサスケじゃ飲みきれない程、牛乳が余ってる。
 あたしは、休憩室のソファに腰を下ろした。
 そんなあたしの肩を、久遠くんはぽんと叩いて。


「どうしたんだ? いつもの元気がねぇな」
「元気だってば。物凄く」


 久遠くんは少し笑って、エプロンを外した。


「シチューの材料買って来るよ」
「分かった」


 財布を片手に、久遠くんは出て行った。
 サスケも、いつもの如くお出掛けしている。
 あたし一人。


「はぁ~・・・」


 あたしは両手で顔を覆う。