【第八章】
~取り戻す日常~




 次の日。
 休業の筈なのに、松の湯は朝からやたらと賑わっていた。
 幹久が昨日のうちに若い人達に声をかけたらしく、鬼姫退治の決起集会さながら、みんなは意気揚々と集まって来て。


「おいミッキー」


 持ち寄ったお酒やジュースや食べ物を休憩室に広げて騒いでいる若者たちを見ながら、あたしは番台に寄り掛かって座っている幹久に声をかけた。
 幹久は番台に座っているあたしを肩越しに見上げる。


「・・・あ?」
「あ、じゃないわよ。まだ増えるの?」
「さぁな。でもさ、ここにいるのはマツコに賛同する人間だけだ。そこら辺は上手く噂を広げるように手は打ってある」


 いや、得意げにそう言いますけどね。
 この町のマダム連中の情報網を、甘く見ない方がいいと思うよ?
 インターネットの高速通信よりも速いんだから。
 それに。


「これ以上人数増えたら、休憩室に入り切らないんですけど、物理的に」


 ほら。
 そうこう言ってるうちに、また戸が開いたし。
 あたしは、げっそりとしながら入って来た人を見て。


「あれ、タカシくん・・・と」


 笑顔で松の湯にやって来たのは、タカシくんと、もう一人。


「ノリカちゃん!」


 タカシくんの後ろで軽く手を上げているのは、ノリカちゃんだった。
 金髪だったストレートの髪の毛は肩の下でキレイに切り揃えられて、落ち着いた栗色に変わってるけど。
 超久しぶりだけど、間違いなくノリカちゃんだった。


「ノリカちゃん、久しぶり! 元気だった?」
「元気じゃないわよ。もー最悪よ」


 無造作に髪の毛をかきあげながらそう言うノリカちゃん。
 うん、この言い回しだけは変わってない。
 何か懐かしい。


「最悪って、何が?」
「元カレよ。マンション借りたくらいで、あたしのこと何でも思い通りに出来ると思ってんじゃないわよ。ふざけんじゃないっつーの」


 あ・・・あははは。
 “元カレ”、ねぇ。
 でも、それはいいとしても、どうしてノリカちゃんとタカシくんが一緒に来るのかな。