【創side】

 ―翌週―

「創ちゃーん! キスして」

 ……きた!!
 『キスして』攻撃。
 この攻撃は、避けても避けても俺を狙い撃ちしてくる。

 その攻撃にヤられてしまう前に、礼奈の体を引き寄せ、額にキスをして気持ちを紛らわせる。

 唇を離すと礼奈は超嬉しそうに笑った。

「エヘッ」

 まじで……可愛い。
 もう一回キスしたい。

 唇にキスしたいなんて、そんな贅沢は言わない。俺はゆでたまごみたいな艶々の額で十分だ。

「ねぇ、創ちゃんギューッてして」

「はっ?ギュッ?」

 姫め、新たな攻撃に出たな。
 『ギューッてして』攻撃とは。
 なかなかやるな。

「うん! ギューッ! って、ねっ、ねっ」

 そんなこと、そんなこと、俺が出来るわけないだろう。

 頭の中で俺の理性と欲望が闘っているんだ。『ギューッって』すると、男はどうなるかわかってんの?

 俺の理性が欲望にボコボコにされちまうんだよ。

「ダメ! ギューッはしない」

「どうして?」

「どうしても」

 礼奈は俺を日々悶絶地獄へと突き落とす。

「じゃあ、礼奈が創ちゃんをギュッてするね」

 よ、よせ。や、や、やめろ。
 余計なことはしなくていい。
 寄るな、触るな、抱き着くな。

 それなのに、小悪魔な姫は両手を広げ俺にムギューッて力いっぱい抱き着いた。

「ひゃあー……! や、やめろおぉぉー……!」

 俺はガムテープのように貼り付いた礼奈を、必死で引き剝がす。

 礼奈は「くふふふっ」と、目尻を下げて俺にくっついて離れない。

 じゃれているつもりなんだろうけど、俺はもういっぱいいっぱいだ。

 脳内に蔓延る欲望が増殖するだろう。
 そこに『バァーン』と現れたクソ真面目な理性。

 よし、まだ何とか対峙できる。

「礼奈、俺のことをからかってるのか?悪趣味だな」

「悪趣味? 好きな人とハグするのは悪趣味なの? パパやママとだってハグするし、大好きな創ちゃんとハグすることが悪いことなの?」

 俺に抱き着いたまま、礼奈は捨てられた仔猫みたいに悲しそうな顔をしてグスンと鼻を鳴らした。

 ちょっと……言い過ぎたかな。
 いや、この顔に騙されてはいけない。

 これは姫の『噓泣き』攻撃だ。
 俺の反応を見て、俺の気持ちを試しているに違いない。

 でもそれが礼奈の作戦だとしても、やっぱり俺は負けてしまうんだ。

 だって、めちゃめちゃ可愛いから。