【礼奈side】

 創ちゃん、ありえないよ。

 せっかく勇気を出して、創ちゃんと手を繋いだのに。

 スーッと創ちゃんの顔が近付いて、瞼を閉じたら、創ちゃんはスーッと私から離れた。

 うそっ……。

 創ちゃんに、私は女性として見られてないんだ。

 友達の言う通りだよ。創ちゃんはきっと他に好きな人がいるに違いない。

 そうに決まってる。

 創ちゃんはリスみたいにガリガリと音を鳴らしてジュースの氷を食べている。

 悲しい映画じゃないのに、涙がポロポロと溢れてきた。その涙は頬を伝いポトポトと繋いだ手の上に落ちた。

 突然泣き始めた私に、創ちゃんが隣でオロオロしてる。

 全部全部、創ちゃんのせいだからね。

「……れ、礼奈どうしたの?どこか痛むのか?」

 創ちゃんが私の肩に手をかけた。

 痛いよ。
 創ちゃん……。

 心が……。
 痛い。

「……創ちゃ……ん、私のこと本当は嫌いなんでしょう」

「何でだよ? 嫌いなわけないだろう」

「ほんとぅ……?」

「嫌いな子と、一年も付き合わないよ」

「だったら……ここでキスして……」

 映画館の中は暗い。
 周囲の人はスクリーンに見入っている。

 だから、一生分の勇気を振り絞り、大胆なことを言ってみた。

 スクリーンの中でも、主人公がキスをしている。あんなロマンチックなキスを私も体験してみたい。

 泣いている私に、創ちゃんの顔がゆっくり近付いた。私はゆっくり瞼を閉じる。

 数秒後、私の額でチュッて音がした。

「……っ」

 嘘でしょう? 私のことを子供扱いしてるの?

 額へのキスももちろん初体験だけど、嬉しくないよ。

 私の涙はまた溢れ出す。

「もういいよ。創ちゃんは私のことちっともわかっていない。創ちゃんなんか嫌いだよ」

「……礼奈」

「もぅ……帰る……」

「帰るって映画はまだ途中だよ。礼奈、待てよ」

 私は椅子から立ち上がった。映画なんてもうどうでもいいよ。映画はハッピーエンドだけど、私はバッドエンドなんだから。

 私は非常灯の明かりをたよりに、そのまま出口へと向かった。