―もっと、刺激的な恋を。―

お試しカップルという王道の設定を、オリジナルの表現で楽しく盛り上げている作品でした！　サブスクサービスに例えた「１ヶ月間無料期間だと思って、付き合って」というヒーローの提案に心を掴まれます。年下でありながらヒロインにぐいぐい迫る溺愛っぷりも、テーマにマッチしていました。ひとつ気になったのは、ヒーローの過去の恋愛についてのエピソード。自暴自棄な行動が、本来の一途な魅力を半減させてしまい、もったいなく感じるポイントでした。物語が進むにつれてヒーローの魅力が増すように意識すると、さらに満足度が高い作品になると思います。

幼なじみという絶妙な距離感の2人。お互いに歩み寄り、だんだんと変化していく関係性は不器用ながらも健気で可愛らしく、つい頬が緩んでしまいます。恋に鈍感なヒロインにとことん翻弄されっぱなしなヒーローを応援せずにはいられません！まさに、幼なじみとのピュア恋がぎゅぎゅっと凝縮された作品です。王道の中に日常で感じられる小さな胸キュンが盛り込まれていました。そして終始安定感のある文章力、お見事です！ヒーローがどれだけヒロインを一途に想ってきたのかがよく伝わりました。お話は綺麗にまとまっていたので追加で＋αストーリーに動きがあると、さらに読み応えのある作品に仕上がると思います。

少子高齢化を防ぐために、生まれてからの16年を観測して、AIが導き出す破局率０％の運命のパートナーに出会うという設定がキャッチーとても素晴らしい作品でした。物語の流れもAIでマッチングした二人の関係が少しずつ変化していく展開があり、最後まで一気に読んでしまうしっかりとした構成でした。一方で、AIというキャッチーな設定が前半しか描けておらず、後半では活かせていないところが残念でした。設定を活かした展開やイベントが後半にもあると、さらに盛り上がりのある作品になるかと思います。

普段は全方向に塩対応のヒーローがヒロインにだけ見せる表情、というギャップの描写で、文字量はさっぱりしているのに内容には厚みがあって読者を意識した文章だと感じました。ただデート中に「この子は彼女じゃない」と嘘をつく理由や、必死にやっているはずの部活を平然と休んで会いに来る、という描写で彼の「本来のかっこいいところ」がやや濁ってしまう印象です。物語の緩急のつけ方はとてもよくできているので「困難な出来事ではあるけどキャラの魅力を損なわないような表現」の幅が広がるとより読み応えが増すのではないでしょうか。