暗い、深海のような場所に私はいた。夢だと認識は出来るけど、目は覚めない。
「ねぇ…ねぇ…」
ぽそりと聞こえた声は、どこかで聞き覚えのある気がして。振り向けば…そこには私じゃない私がいた。でも何かが違くて、やつれているし顔色も悪い。私より明らかに痩せこけている身体には痣が沢山あった。
「君は、私?」
「うん。あなたであって、あなたじゃない。そんな存在。」
細く消えてしまいそうな声で伝えられたことは、夢だからとつい信じてしまった。
「じゃあ君は…私のドッペルゲンガー?」
「そんなものかもしれないね。でも、あなたは死なないよ。あなたは私として生きて、ね?」
そこで目が覚めた。あの子が言っていたいた言葉…私があの子として生きる?どういう意味なんだろう。
私はベッドから降りて窓の外を見た。ポツンポツンと並ぶ電柱、長く永遠に続いているようなアスファルトの道路。何も変わらない、いつもどおりの風景。でも…何かおかしい。
「そんなわけない…あれは、夢なんだ。」
そうに違いない。あんな非現実的な事があるなんて有り得ない。ほら、いつもどおりに時計が鳴る……え?
私は目覚まし時計を見た。いつもジリリリリとうるさい時計は、今日は静かにただ揺れるだけ。そうして、また一つ気付いた事がある。
鳥の鳴く声が聞こえない、いや、それ以前の問題だ。
「何も、聞こえない。」
急に込上がる恐怖に私は頭を抱え込んだ。音が無い世界、それは突然私に襲いかかった恐怖。そしてこのおかしな世界で一つだけ確かな事。
『アナタハ、ワタシトシテイキル。』
音の無い世界に突然響いた低い声。後ろを振り返ると、そこには昨日の夢に出てきた私じゃないワタシがいた。歪み狂った笑顔は、さらに私を恐怖に陥れた。
『アァナタハァァァワタタタシ…、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』
「ひぃっ!」
笑い声と共にワタシの細い首が、折れた。それを見た私は部屋にいられなくなり外へと逃げる。
『ニニィィィィガァサナァアアァアィ!』
狂った笑い声が、部屋に響いた。まるでこれから起こる恐怖の幕開けのように。