顔を上げ、わたしの顔を見ては俯き。

やがて、意を決したようにゆっくりと口を開いた。


「蜜花さんは……

僕たちの中にいると思ってますか?

真紀さんを殺した犯人が」


頭を鈍器で殴られたようなって表現は、的確だと思う。

それぐらい衝撃的な質問だった。

黒く澄んだ瞳に正面からまっすぐに見つめられ声が出せない。

それは肯定を意味してしまうと分かっていたけど。

雪君はふっと微笑み、目を伏せる。


「いいんです。そう思わない方が不思議ですから」


「……ごめんなさい」


わたしの声は小さくて、雪君の耳に届いたかわからない。

真紀さんの死の謎が、わたしの心に不安を、疑いをもたらした。

真紀さんは死んだ。

誰かに殺されたのかもしれない。

そしてその体を隠した人物がいる。

神原さんが話した第三者の存在がこの家の中に、この近くにいるのかもしれない。

でもわたしは、どこか得体のしれない志摩家の人々の方が怖いと感じ始めていた。


雨は激しさを増し、窓を叩き続ける音だけが室内に響く。

何度も口を開こうとして、やめた。

中途半端な言葉は、逆に雪君を傷つけてしまうから。

でも、先にこの居心地の悪い空気を破ったのは雪君だった。

雪君なにかを覚悟した顔でわたしの目をまっすぐに見つめる。


「蜜花さん。

蜜花さんは真紀さんから、僕の家族に関する噂の話を聞きませんでしたか?」