真紀さんは、シゲさんにこんなにも想われていたことを知っていたんだろうか。

いや、シゲさんに協力してもらってると真紀さんはいっていたし、全然知らなかったのかもしれない。

好きな人……か。

小学生のころは、それなりに好きな人もいたと思う。

でも目覚めてからはそういう気持ちになれなかった。

失くした時間を取り戻すことに必死だったのもあるけど、あの飛行機事故の関係者だと知ると好奇の目で見られることが怖くて、人と関わるのを避けるようになってしまったから。

一度だけ、事故現場で、姉がわたしと同じ年頃の少年に食べられていた姿を見たと、両親や医師に話した事がある。

でも姉の体にそれらしい外傷はなかっということで、ただの意識障害だと片付けられた。

幼いわたしに墜落現場は凄惨すぎて、精神ストレスから見た幻想だという人もいれば、頭部に怪我をしたことによる外傷性脳損傷のよるものだという人もいた。

でも、あれがわたしの心で生まれた幻覚ならば、あまりにもひどい。

わたしは姉の事が大好きだった。

それなのにって、自分を責めた。

人を好きになるのが怖くなった。

そんなわたしに、シゲさんの気持ちが理解できるというのは驕りかもしれない。

でも、放っておきたくなかったから……


「……お前さ、なにしてんの?」


気がつくと、いつの間にかシゲさんがわたしの目の前に立っていた。

その顔からはイライラした様子が伝わってくる。

見守っていたつもりが、自分の考えに入り込んでしまっていた。

慌てて立ち上がる。


「あ、あの……」


なんて言葉をかけたらいいかわからずにいると、シゲさんはわたしの隣の壁を右手で思い切り叩き付けた。

シゲさんの指の骨が全て、折れるんじゃないかってくらいに。

頬の横で感じた空を切る風が、衝撃的すぎて声が出ないわたしを一瞥し、


「うぜぇ」


と言い捨て、シゲさんは振り向くことなく、三号室の方へ去って行った。

残されたわたしは驚きと自己嫌悪で、しばらくその場を動けなかった。



そして、再びの夜が訪れる。