シゲさんの部屋を訪ねようかと思ったものの、肝心のその部屋がわからない。

確か神原さんの部屋は二号室。

ということは、一号室か三号室がシゲさんの部屋だということになる。

わたしは一号室の前に立ち、ノックしてみた。

軽く数回。

なんの反応もない。

次はちょっと強めに叩いてみる。

しばらく待ってみたが、中から返事が返ってくることはなかった。

次に三号室に向かう。


『外部から侵入した犯人』というものを意識しているせいか、まっすぐに伸びた長い廊下が、いつもより距離を感じさせた。

端から端まで歩くのに数分もかからないはずなのに。

僅かな暗闇に誰かがいるかもしれない恐怖。

でもそれを強く意識してしまうと、わたしは二度と部屋から出ることができなくなるかもしれない。

大丈夫、誰もいない、何もない。

そう暗示をかけながら慎重に歩を進めた。


が……カフェスペースの前で足を止める。


オレンジ色のダウンライトで照らされたそこに、シゲさんがいたからだ。


シゲさんは千代子さんがはめ込んだ、雨戸の前に立っている。

外は見えないはずなのに、じっと。


その横顔がとても辛そうで、声を掛けることができなかった。

泣いているんじゃないかと思ったから。

かといって自分の部屋に戻ることもできず、わたしはそのまま床に座り込み、壁に背をもたれた。