「私は……私は怖くて怖くてたまらないんですっ!

真紀さんが殺され……しかもその遺体が無くなったなんて、おかしいじゃありませんか? 異常……そう、本当に異常としか言えないわ。

それなのに、皆さん平然とした顔で、危機感もなく過ごしていて……

人が殺されたんですよっ?」


千代子さんの悲痛な叫びは、わたしが目を塞いだ想いと同じものだった。

非日常な状況におかれると、人は少しずつなにかが壊しながら自分の精神を保とうとする。

わたしはそのことを知っていた。

でも、現実を見ようとしなかった。

千代子さんはずっと耐えていたのだろう。

その両頬は涙で濡れていた。


「……だから?」


千代子さんの魂を削るような訴え。

しかしそれは、桔梗さんに届くことはなかった。

桔梗さんは冷たい表情で千代子さんを見つめる。

軽蔑したような、馬鹿にしたような、人を人と思わないような瞳で。


「だ、だから……」


勢いをそがれ口ごもる千代子さんを見て、桔梗さんは目元を緩め小さく笑う。


「浅いわね。あなたは。

そうやってここにいる皆を不安に陥れてどうするの?

疑心暗鬼にして殺し合いでもしたらいいと思ってるの?」


「そんな、そんなことは!」


「そういう状況をつくりかねない事を簡単にいうものじゃないわ?

そりゃあ、あなたは主人がいなくなって、すがるものがなくなったわけだから?

気持ちがわからなくもないけど」


意味深な桔梗さんの言葉に、千代子さんは一気に青ざめた。

唇は赤みをなくし、わなわなと震えた。