でもだからといって、志摩家の人々に助けに行こうという意思がまったく感じられないことが信じられなかった。

自分たちの父親が心配じゃないのだろうか?


快さんも雪君も初ちゃんも亘一さんも、皆表情を変えることなく淡々としている。

桔梗さんが言うように、無事だと信じているから?


家族の事情とかあるのかもしれないけど、それでも家族を亡くした経験があるわたしの目にはとても悲しい姿に映った。


「とりあえず、雨が止まないとどうしようもないのは変わりがないのでしょう?」


桔梗さんは深いため息をつきながら、神原さんを見て言った。

神原さんは責任を感じているのだろう。

俯いたまま小さく頷く。


「じゃあ、やはりここにいるしかない、ということね。

話はわかりました。

さあ、食事にしましょう」


桔梗さんは多恵さんに目で合図をする。

多恵さんは驚き、周囲を見回した。

この状況のまま、食事を始めてもいいのか戸惑ったのだろう。

さすがに黙っていられなくなったのか、千代子さんは自分のエプロンの端をきゅっと強く握りしめ、桔梗さんの前に立った。



「奥様、失礼を承知で申し上げます。

本当にこのままでよろしいのですか?」


桔梗さんはうんざりしたようで、目線すら合わせようとしない。


「なぁに? あなたはなにをいいたいの?」


「このお屋敷には、今、殺人鬼がいるかもしれないんですよ!」


ややヒステリックな声が室内に響き渡る。


それは、恐らく誰もが思っていること。

でもあえて口にしないでいたことだった。