「大きな音が聞こえたから来てみたら、階段の下で二人が倒れていたからびっくりしましたよ、本当に。

でも……雪坊っちゃん、蜜花さんの事を身を挺して守るなんて王子様みたいですねぇ」


多恵さんは床に置いていたシーツを手に取りながら、感心したように言う。


「や、やめてください」


雪君は耳を赤く染め、顔をそむけた。

拗ねてしまったみたい。

わたしは苦笑いしながらも、雪君が姉の名前を口にしたことが気になっていた。

姉がいた時、雪君は七歳。

記憶にあってもおかしくはない。

でも言葉にはしにくい、もやもやとした感情があった。

自分でも説明がつかないけど。


「男は女を守ってこそ、ですよ。
こうしちゃいられない、千代子さんに教えなくちゃ」


「教えないでください」


呆れたようにつっこむ雪君。

そのやりとりが面白くて、我慢できず、吹き出した。

雪君は顔を赤くしたまま黙り込み、多恵さんもワハハと豪快に笑う。

穏やかな時間を感じていた、まさにその時。


ガシャンというガラスの割れる音が、和やかな空気を邪魔するかのように聞こえた。

そして、続く女性の


「ぎゃあぁぁぁっ!!」


という天を裂くような悲鳴。

聞いた者を恐怖に陥れるには十分すぎるその叫びに、わたしも多恵さんも表情を強張らせた。


「な……に?」


多恵さんはわたしを見る。

答えを求めてではなく、不安から口にしたのだろうが、その声は震えていた。

わたしは首を左右に振りながら、雪君に目を向ける。

雪君は今まで見たことがないくらい、険しい表情をしていた。


「雪く……」


声を掛けようとしたが、雪君は素早い動きで近くのガラス戸を開け、靴下のまま庭に出た。


「待って!」


慌ててその背を追いかける。