雪君はゆっくりと瞼を開ける。

目の前のわたしの顔を見て、ふっと柔らかく微笑んだ。


「……大丈夫ですか?」


わたしの下敷きになったせいで気を失っていたというのに、それでも気遣ってくれる雪君の優しさに胸が締め付けられる。


「わたしは大丈夫だよ。雪君が守ってくれたから」


「そうですか。……よかった。
いつも階段を上る時は気を付けてくださいねっていうのに、相変わらず危なっかしいんですね」


いつも?

相変わらず?

雪君が言っていることが理解できない。

でも今はそれよりも、早く体を起こして誰か呼ばないと。


「雪君、手、少し緩めてもらっていい?」


そういったのに、雪君は逆にわたしの体を包む腕に力を込める。


「雪く……」


年下の、しかも華奢な体の雪君のどこにこんな力があるのか、そう思うほど強い力だった。


「気を付けてくださいね。


……柚子さん」


柚子?

姉と勘違いしている?

驚いて雪君の顔を見ると、雪君は目を閉じていた。

胸が規則正しく上下している。

まさかこの状態で寝てしまったのだろうか。

わたしはすっかり混乱していた。

階段の上に感じていた人の気配も消えているし、雪君は力を弱めてくれそうにない。

しかも彼はわたしを姉さんと間違えているようだった。

一体なにがなんだか……

途方にくれていると、ぱたぱたと軽快な足跡が聞こえて白い布団カバーを数枚抱えた多恵さんが現われた。

多恵さんはわたし達の姿を見て驚き、すぐに助け起こしてくれた。

雪君も多恵さんの呼びかけで目を覚ました。

雪君はわたしが無事だったことで安心したせいか気が抜けて、つい寝てしまったらしい。

昨夜はあまり眠れなかったから寝不足だったのも原因だと思う、と雪君は苦笑した。