頭を持ち上げると、わたしの下敷きになった雪君の顔がすぐ目の前にあった。

青白い顔で目を閉じ、ぐったりとしている。


「雪君っ」


慌てて立ち上がろうとしたが、雪君に強い力で抱きしめられていて身動きが取れない。

雪君はわたしの呼びかけに反応せず、完全に意識がないようだ。

一瞬の間にどうやって体を反転させたのかわからない。

でも雪君がわたしを庇ってくれたことは確か。


その時、階段の上から人の足音が聞こえた。

大きな音に気付いた人が見にきたのだろう。

この上は雪君の兄弟の部屋があるという。

体制が悪く身動きが取れないわたしにとって、天の助けのように感じた。

手を貸してもらおう。

そう思い、首を階段上に向けてみる。

だが、誰かがこちらを見ている影はあるのに降りてくる気配はない。

上からだと状況がわからないのかも。


「すみませんっ。あの、よかったら手を貸していただけませんか?
わたし、階段から落ちてしまって、それを雪君がかばってくれて……
雪君、気を失ってるんです。わたし、わたしも身動きが取れない状態で……」


思い切って声をかける。

桔梗さんがこの姿を見たら、なんと思うだろう。

そう考えると暗い気持ちになるが、雪君がなかなか意識を取り戻さないことのほうが心配だ。

わたしは二階の人物の返事を待った。

でも誰かがいる気配はあるのに、返事はおろか動く様子もない。

ただ、じっと見ているだけ。


「あの、すみませんっ」


もう一度声をかける。

その時。


「……ん」


雪君が薄く目を開いた。


「雪君っ」