廊下を進むと、大きなガラス戸があった。

そこから見える庭は専門的な知識がないわたしにもわかるぐらいとても見事で一発で心をひきつけられる。

大きな池を中心に広がる芝生。
わずかな起伏があり、高い場所には白い庭石が、低い場所には松の木が配置されてあった。
池の中心には小さな島があり、そこに架けられた橋は緑色の苔がはえている。

一際目をひいたのは、庭の左隅にある緑の葉が茂る枝垂れ桜の木。

わたしの部屋にある桜の押し花は、この木からつくられたものかもしれないな、なんて思いながら見ていると、


「この庭は祖父が、東京にある六義園という日本庭園を模して造ろうとしたそうです。でも一般家庭の庭では再現できる部分にも限界があり、飽きて途中で投げ出したとか……
その枝垂れ桜も六義園にあったものと同じものを、と植えたそうで、三月の末になればとても綺麗な花をつけるんですよ」


と、雪君が教えてくれた。

雪君のおじい様がこの庭を……

感嘆の想いで庭を見つめていると、雪君が移動を始めたので慌ててついていく。


「この廊下を右に曲がると僕たち兄弟の部屋へと続く二階へ上がる階段があります。

左側に進めば父と母の部屋や、浴室、お手洗いがあります」


「すごく広いんだね」


「ええ。古い建物なので畳一枚のサイズも少し大きめなんです。以前はすべての部屋が襖一枚隔てただけで繋がっていました。

さすがに人をお泊めするのに、そのままというわけにいかなくて、壁を作り直したそうです」


襖一枚先には見知らぬ他人がいるとか、確かに気が休まらないかも。

雪君は薄暗い階段を上っていく。


「段が急なので気を付けてください」


そう言われたのに三段目を上っていると足が滑った。


「!」


「蜜花さんっ」


危うく顔から倒れそうになったところを、振り向いた雪君に支えられる。

が、わたしの体重を支えきるのは難しかったのだろう。

雪君はバランスを崩し、わたしの両肩を掴んだまま前に倒れる。

わたしもそのまま後ろに転倒すると思い、衝撃に身を固めた。

どんっという音と共に、体に伝わる鈍い振動。


だが……

背を床にぶつける痛みはない。

宙に浮いた感じはあったのに、なんで?

ぎゅっと瞑っていた目を開くと、視界に飛び込んだのは木目の濃い廊下。

雪君が覆いかぶさる形で倒れたはずなのに。なんで?