地の棺(完)

わたしが頭を下げると、雪君は静かに微笑んだ。




******



階段を下り、あの和の空間へ繋がる扉を抜ける。


「このドアは、客間のある洋館と僕たちの家を繋ぐものなんです」


「え? 別々の建物なの?」


わたしの間抜けな質問に、雪君は苦笑する。

いや、聞くまでもなかった。

先ほども目にした扉の先に伸びる長い廊下は、二階の面積とはまるで違う。

表からは洋館の部分しか見えないため、気が付かなかった。


「元々はこちら側の屋敷しかなかったんです。

それを、本土から来る方に部屋をお貸しするため、新たに洋館部分を増設したんです」


なるほど。

確かに洋館は比較的新しいが、屋敷はとても年季が入っているように見える。

廊下の軋む音や、柱に刻まれた傷も和の趣を感じさせた。

雪君はゆったりとした足取りで廊下を進む。

左右はそれぞれ六枚の障子戸があり、その全ては閉まっていた。


「この障子戸の先は客間になっています。

洋館ができるまでは、ここを客人にお貸ししていたそうです」


雪君が右側の戸を開ける。

そこには若草色の畳が鮮やかな和室があった。

正面には小さな障子窓があり、山吹色の土壁はどことなく温かみを感じさせる。

右側には白い襖が二枚あり、左側には白磁の花瓶が飾られた床の間があった。

い草の匂いが妙に懐かしくて、わたしは部屋の空気を胸いっぱいに吸い込む。

田舎の祖父母の家で姉と一緒に畳の上で昼寝をした日のことを思い出し、なんとも言えないむずがゆい気持ちになった。