地の棺(完)

落ち着かないのか、そわそわしている。

視線は宙を彷徨い、話すか決めかねているようだった。

でも本心は話したいのだろう。

どうしたら真紀さんが話しやすいか考えたけど、いい案が思い浮かばない。

かける言葉を迷っている間に、真紀さんはなにかを決意した目でわたしを見つめた。

不安が色濃く滲む瞳で。


「私、見たの」


見た?


震える声で話す彼女に、先ほどまでのおどけた雰囲気はない。

そのことがわたしの中の恐怖心を引き出す。

この先の言葉を聞くことで、わたしの中の何かが変わってしまうような、そんな気持ちになった。

でも、わたしは聞くことをすでに選択している。


「……なにをですか?」


心まで暗く染まってしまわないように強い気持ちで不安を抑えようとしたけど、絞り出した声は震えていた。

真紀さんの赤く形の良い唇が花びらのようにほぐれる。


「化け物の巣穴」


紡がれた言葉は意外だった。



「化け物の……巣穴?」


脳裏に浮かぶイメージに、いささか拍子抜けする。

もぐらって、あのもぐら?

真紀さんはわたしになにか求めるような目をしたまま、真剣な顔で頷いた。


「あのね……」


続く言葉を待っていたその時、真紀さんの顔が激しく強張る。

目を大きく見開き、頬は引き攣っていた。

その目線はわたしを通り越し、後ろに向けられている。

背後を振り向くと、そこには静かにこちらを見つめる雪君が立っていた。

人形のように一切の感情を排除したその双眸で、わたしと真紀さんを静かに見つめている。