地の棺(完)

「……本当に」


家に帰りたいと思った後だったから、真紀さんの言葉に素直に頷く。


「蜜花ちゃん、心細いよね。
いくら柚子ちゃんが暮らしていたところだといっても、ここの人たち、みんな普通じゃないもの」


普通じゃ……ない。

確かにちょっと変わってるって思ったけど、真紀さんは心底うんざりしているって口調でそう言った。


「いい人そうなのは表面だけだから。油断しちゃだめよ」


「どういう……ことですか?」


真紀さんは背後を振り返り、誰もいないことを確認すると、わたしの顔に自分の顔を寄せた。


「変な噂があるのよ」


「噂ですか?」


「そう。蜜花ちゃんが聞いたら笑っちゃうような噂だけどね。

あぁ、もうっ。快に会うために来ただけなのに。嫌になっちゃう」


真紀さんはわたしの肩にしなだれかかり、大きなため息をついた。

真紀さんからは、薔薇の花のような香りがしてドキドキする。

自己主張しすぎないその香水は、真紀さんの華やかなイメージとは少し合わない気がした。

いや、それよりも……


「真紀さんはシゲさんの彼女じゃないんですか?」


シゲさんと一緒にいる姿はなんだか自然で、てっきり付き合っているんだと思っていた。

真紀さんは体をおこすと、わたしに向き直って苦笑した。


「やっぱそんな風に見えてた?
違うの。あれは桔梗さんへのカムフラージュで、本命は快なのよ」


そういって真紀さんは胸元で揺れるネックレスをちょいっと引っ張った。

桔梗さんへのカムフラージュという意味もなんだか納得できる。


「じゃあ、快さんと付き合ってるんですか?」


「ううん。私の一方的な片思い。快は忘れられない人がいるのよ」


真紀さんの笑顔が悲しそうに霞む。

あまり立ち入ってはいけない話なのかもしれない。

そう思ったわたしは、話題を変えることにした。