地の棺(完)

「母は僕たちの事、なんでも把握しておきたいんです」


「なんでも?」


「はい。昨日の事は報告していなかったんで怒らせてしまったみたいで。

すみません」


悲しそうな顔をしている雪君を見ていると、胸の奥がちくっと痛んだ。

雪君が気に病むことはないのに。


「わたしの母親も心配性なの。どこも同じだね」


なんていっていいかわからない。

励ますのも違うだろうし。

気にしないよっていうのも違う気がする。

でも、このことで雪君が気に病まなくていいように、わたしは冗談めかして笑った。

そんなわたしに面食らったのか、雪君はキョトンとした表情を浮かべていたが、ふっと微笑んだ。


「カフェスペースで待っていてもらえますか?
着替えてから行きます。その後、家の中を案内しますね」


わたしは雪君の好意を素直に受け、首を縦に振る。

そのまま階段を上り、カフェスペースへ向かった。

ソファに座り外の景色を眺めながら、他人の家で暮らすことの難しさを痛感する。

自宅と病院という狭い世界でしか知らないわたし。

人付き合いはとても難しい。

いつまでも降り続く雨を見ながら、家に帰りたいという気持ちが沸き起こった。

まだ来たばかりなのに。

しばらく帰れないというのに。

大きなため息をついた時、背後に人の気配を感じる。

振り向くと、真紀さんが驚いた顔で立っていた。


「蜜花ちゃん?」


「あ、はい。こ、こんにちは」


真紀さんはとても魅力的な笑顔を浮かべ、わたしの隣に腰掛ける。


「隣いい? って聞く前に座ったけど。
大変なことになっちゃったね」