桔梗さんの目から感じ取った、一瞬の狂気。

それはわたしの体を心を恐怖させた。

沈黙が続く中、廊下から足を引きずるような音がしてこの家の主三雲さんが姿を現す。

三雲さんは昨日とはうって変わって険しい表情をしていた。

無言のままテーブルに近づき、上座の席に座る。

昨日は気づかなかったが、三雲さんは右足を引きずるような歩き方をしていた。

でも怪我をしている風ではない。

誰も気遣う様子がないことから、古傷の後遺症なのかもしれないなんて思いつつ、三雲さんが口を開くのを待った。


「……他の者は」


「扉越しにお声をかけたのですが、皆様おいでになられません」


いつのまに来ていたのか千代子さんが入り口に立ち、そう答える。

いや、気づかなかっただけで、三雲さんの付き添いをしていたのかもしれない。

三雲さんは大きなため息を吐いた。


「初も晴も……自覚が足りんな」


はる?

そういえば昨日、姿はなかったけど、娘ともう一人息子がいるといっていた。

晴というのがその人だろう。

桔梗さんはなにがおかしいのかクスクスと笑い、雪君は相変わらず無表情。

快さんはなにを考えているのかいまいちわかりにくいし、神原さんはどんなに険悪な雰囲気になっても笑顔のままだった。

いい人達ばかりだと思ったんだけど、みんな本心が見えない。

姉は何故ここでの暮らしを選んだんだろう。


「さて、と。さっそく本題に入るが、昨夜の嵐について話をしたいと思う」