地の棺(完)

快さんは昨日までの軽薄さのない、真面目な顔で言った。

わたしに触れていた桔梗さんの手を取り握りしめる。


「……それだけ？」


「それだけですよ。雪に直接確認しますか？」


桔梗さんは早足で雪君の前に移動すると、両手で雪君の顔を掴み自分の方向へ向かせた。

雪君は表情を変えずに、桔梗さんをまっすぐに見つめる。

その異様な光景に身動きができずにいると、快さんが耳元に顔を近づけた。


「ごめんね。怖い思いさせちゃって。
うちの母さん、ちょっと過保護すぎるんだ」


小さな声で囁くように耳打ちする。

過保護。

うちの両親もそうだけど、なぜだろう。

桔梗さんの先ほどの雰囲気は異常な怖さがあった。

女の嫉妬というか。

母親って、男の子供に対してみんなそうなんだろうか？

慣れているのか、神原さんはにこやかな表情で白いティーカップに入った紅茶を飲んでいる。

快さんはわたしの手を取り、自分の隣の席に連れて行った。

椅子を引き、座るよう促す。

椅子に腰掛け顔を上げると、その正面に雪君と桔梗さんが並んで座っていた。

桔梗さんと目が合い、思わず狼狽える。

桔梗さんは先ほどとは打って変わり、妖艶な笑みを浮かべてわたしを見た。


「ごめんなさいね、驚かせてしまって」


すっかり落ち着きを取り戻した口調に戸惑いつつも、わたしは笑みを返して流すことにした。

なにか話すときは、内容をよく考えて口にしなければいけない。

桔梗さんが、わたしが深夜に雪君と会ったことを不快に感じたのだとしたら、仲良くしちゃいけないのかな。

そう考えると、少しさみしくなった。