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多恵さんがわたしの部屋に来たのは、午前五時を過ぎたころ。

朝食前に旦那様から話があります、と言われ、簡単に身支度を整えた後、食事をした部屋に向かった。


部屋の中に入ると、桔梗さん、快さん、雪君、神原さんがいた。

誰一人口を開かずに椅子に座っている。


「……おはようございます」


声がかけづらい雰囲気だったが、挨拶をしながら中に入った。


「おはよう、蜜花さん。ごめんなさいね。こんな朝早くに」


桔梗さんが、申し訳なさそうな顔で立ち上がる。


「あ、いえ、大丈夫です。
昨日、雪君に話はちょっとだけ聞いてます」


気を使わないで欲しくてそういったのだが、わたしの言葉を聞いた桔梗さんの顔から笑みが消えた。


「……なんですって?」


「え?」


形のいい眉毛が吊り上がり、ぞっとするぐらいきつい目つきで見つめられる。


「なぜ雪から?」


桔梗さんがゆっくりとした足取りで、わたしの前に歩み寄った。

赤いマニキュアの塗られた爪で、頬をつっとなぞる。

何故、彼女が怒っているのか理解できないわたしは、言葉を発することができなかった。

雪君はわたしと会ったことを話していなかったのだろうか?

でもだからといって、桔梗さんが怒る意味が分からない。


「母さん。やめてください」


いつの間に近づいていたのか、そんな桔梗さんを制止ししてくれたのは快さんだった。


「今、雪に聞きました。昨夜、神原先生を呼びに行った時に雷におびえて部屋から出た彼女に会ったそうです」