「手紙、というのは?」


沈黙を破ったのは神原さん。

彼は元の柔らかな微笑を浮かべていた。

それをきっかけに他の人々も、停止していた時間を取り戻す。

この時、わずかに不信感が芽生えていたわたしは鍵のことを話すのはやめた。

気のせいかもしれないけれど、嫌な予感がしたから。


「なにも、入ってなかったんです。
でも消印が最近の日付で、加岐馬と書かれていたのでこちらにいらっしゃるどなたかが出してくれたのかと……そう思ってきました」


「まぁ……どなたかご存じ?」


桔梗さんが周囲を見回す。

でも誰も声を上げるものはいなかった。


「最近、というのは間違いではないんですか?」


神原さんの質問に首を縦に振る。


「間違いないです。郵便局の方から、母が直接手渡しで受け取りましたから」


たまたま玄関の掃除をしていた時に受けとったと、母には聞いていた。

わたしの返事を聞いた神原さんは不思議そうに首をひねる。

さっきからなにかと反応してくれている神原さん。

もしかして、彼が姉の恋人なんだろうか?

でもさすがに、この場では聞けない。


「あのさぁ」


ぶしつけともいえる口調で、シゲさんが声を上げた。

真紀さんが三雲さんの顔色を伺いながら、制止しようとシゲさんの肩を揺さぶる。


「あんたって確か、ずっと寝てたって子でしょ?
柚ちゃんが死んだあと」


歯に衣着せぬ言い方。