「わ、わ、わたしは、森山蜜花、です。
じ、事情を知ってる方もいらっしゃると思いますが……八年前にこちらでお世話になっていた森山柚子の妹です」


「柚子さんの?」


そういって驚いた顔をしたのは家庭教師の神原さん。


「ご存知ですか?」


神原さんは顔色を曇らせる。


「はい。ちょうどその頃、こちらで雇われましたので。すみません、途中で口を挟んでしまって。
どうぞ、続けてください」


わたしが柚子の妹だと聞いて驚いたのは神原さんだけ。

自分には全く関係ないと思っているのか、シゲさんや亘一さんは黙々と食事を続けていた。

気遣うような視線を向けてくれている真紀さんも、姉のことを知っているのだろう。

であれば話は早い。

わたしは今後のために、今、この場所で聞いておきたいことがあった。

姉の手紙を出したのは誰なのかということと、同封された鍵に心当たりがないかということ。


雰囲気にのまれないように深呼吸した後、口を開く。


「……こちらに来たのは、姉から手紙が届いたからです。
今からひと月前に」


その瞬間、空気が変わった。

お付き合い程度に話を聞いている、といった雰囲気だったのに、今は部屋にいる全員がわたしに注目している。

確かに死んだ姉から手紙が届いたというのはおかしな話かもしれない。

でも、あきらかに驚き困惑した表情の人々がそこにいて、わたしは本題を切り出すことができなくなってしまった。

そんなに変なことを言ったのかしら?

こちらに来たいという連絡をした時、目的も伝えていたのに。