気まずさを感じながら、桔梗さんの隣りに座る人物を見る。

ゆっくりとした動作で立ち上がった男性は、グレーのジャージを着ていて、長い髪を後ろでひとつに束ねていた。

一礼すると顔を上げることもなくすぐに椅子に座り込み、再び食事を続ける。


「彼は志摩亘一(しまこういち)。私の弟です」


弟、というにはかなり年の差がありそう。

三雲さんは五十代後半か六十代前半くらいなのに、亘一さんはどう見ても三十代。

彫の深い顔の三雲さんとは真逆で、亘一さんはとても線の細い神経質そうな顔をしている。

華奢な体形も女性的だ。


「あとは使用人が二人ですな。
一人は貴方もご存知の加川多恵(かがわたえ)、もう一人は……千代子、こちらに」


大きな銀のトレイに料理を乗せて運んできた女性に、三雲さんが声をかける。

千代子と呼ばれた女性は、白髪混じりのショートヘアに黒い長袖のワンピースに白いエプロンをつけており、四十代ぐらいに見えた。

朗らかな明るい笑顔を向けてくれる。


「彼女は井野千代子(いのちよこ)です。
この加岐馬島出身だから、観光されるときは彼女に聞くといいでしょう」

三雲さんに紹介されると、女性は静かに頭を下げた。


この場にいる者の自己紹介が終わったが、一度に名前を覚えられるか、正直不安。

名簿がほしい、なんて思っていると、周囲の視線が集中していることに気付く。

次は自分が自己紹介する番だと気づき、背中に冷たい汗が流れた。

プレッシャーの中、頭の中で文章を組み立てる。