初ちゃんは眉間に皺を寄せたまま顔を背ける。


「忘れないでよね。そんな子供のわがままでたくさんの人が殺されたってこと」


うん。


声には出さなかった。

初ちゃんの言いたい事がよくわかったから。

どんな理由があっても、人を殺していい理由にはならない。

姉の死が彼を狂気の淵に追いやってしまったのか、それとも……




わたしにはわからない。

姉の首を抱きしめたときの雪君の笑顔、あれは自分のものにならないとわかっていた姉を手に入れた満足感から?


隣にいる初ちゃんを見つめ、考える。

わたしは初ちゃんに惹かれてる。

初ちゃんが雪君の立場にいたら……


彼の為にこの身を差し出すだろうか、わたしは。


初ちゃんの白い喉に浮かぶ椿さんの赤い唇。


「初ちゃん。初ちゃんは椿さんと……」


「え? 椿がなに?」


「……ううん。なんでもない」







手の中に握りしめた鍵。


思えば、この時初ちゃんに言われるままに処分するべきだったんだと思う。


でも後悔するのは、もっと先の話。




*終*