「シゲちゃんっ!?」


「おお、快。ちょっと手伝ってくれよ」


と、シゲさんの声は聞こえるけど、姿はどこにもない。

どこに……

シゲさんを探してわたしも快さんも部屋中を見回したけど、全くわからなかった。

すると、


「ここだ。ベッドの下だよ」


ベッドの下?

両膝をついてのぞき込むと、そこには顔だけのシゲさんがいた。


「っっっ!!」


叫びだしそうな口を押さえ、後ろに飛びずさる。

次にそこを除いた快さんも、とても驚いた様子で「うっ」と声を上げた。


「生首じゃねぇよ。ここ、穴が開いてんだ。
ぼさっとしてねぇで、ベッドどかしやれ」


穴?

快さんはベッドの端を持ち上げ、少しずつずらすと、そこには人が一人通り抜けられるくらいの四角い穴が開いていた。

ミントの匂いは強さを増し、ここから香ってるんだとわかる。


「こんなところに……」


穴からはい出たシゲさんの服は泥だらけで、髪も埃っぽかった。


「ここだけじゃないぜ。多分全室どこかしら繋がってるみたいだ」


快さんはとても驚いたのか、口を大きく開けたまま呆然としていた。

初ちゃんもシゲさんが出てきた穴を覗き込み、信じられないといった顔で首を振る。


「なんでお前こんなとこ……」


「お前っていうんじゃねぇよ、クソガキ。

裏庭を探してた時、桜の木の近くに変な穴を見つけたんだよ」


「穴?」


わたしの問いかけに、シゲさんは上機嫌で頷く。


「そうさ。小さな鍵穴みたいなやつがな。
柚子の妹が大事そうにもってたやつがあうんじゃないかと思ったから借りた」


借りたって。

あれはそんなもんじゃなかったと思うけど。

シゲさんはわたしに向かって鍵を投げた。


「もういらねぇ。お前達が落ちたあの大きな穴にも繋がってるから必要ねぇ。
あ、それとこれ、この下にあったぞ」


そう言ってシゲさんがパンツの後ろポケットから取り出したのは、姉さんの押し花が入った小さな額縁だった。

この穴の中にこれが?

穴を出入りしていた誰かが、謝ってこの中に落としたんだろうか。

そう思うと、背筋がゾッとした。