「シゲちゃん。もう、もうやめてくれ……」


快さんが立ち上がり、シゲさんとわたしの前に立ち塞がった。


だめ。

今話をやめたら、きっともう聞けなくなってしまう。

タイミング的に、そして、わたしの心の耐久的に。


「教えてくださいっ シゲさんっ」


わたしの大きな声に驚いた快さんは、とても苦しそうに顔を歪めていた。


「わたし、姉さんの事を知るためにここに来たんです。だから」


シゲさんは右手に持った鍵を照明の光に透かし、それを強く握りしめた。

神原さんは頭を両手で覆い、うなだれている。

初ちゃんは窓の方に顔を向けたまま、じっと目を閉じていた。


「志摩三雲の子供だよ」


……え?


三雲さんの……子供?


「な、なんで……」


頭が整理できない。

三雲さんの子供を姉が妊娠していた?

恋人じゃなくて、三雲さんの?

だから中絶するために帰ろうとしていた。

なんで……


「なんでっ!?」


気が付けば口から勝手に大声が出ていた。


優しく、頼もしいお父さんといった雰囲気の三雲さん。

あの人が千代子さんと……っていう話を知った時にはショックだったけど、今はあの時よりも衝撃が大きい。

なによりも信じられなかった。

姉が二股を? 不倫をする人だなんて、それだけはどうしても信じたくなかったから。


「なんで? わからないか? 快の母ちゃんが他所から来た女を異常に嫌う態度見てて。

椿とも会ったんだろ? あいつがなにしてたと思う? 金払ってここで暮らしてるように見えるか?」


シゲさんの言いたい事がなんとなくわかった気がした。

でもそれを認めたくなくて、首を横に振る。