地の棺(完)

「先生とシゲちゃんが来た時、一緒にいるはずの多恵さんがいない時点でなにかがあったのはすぐにわかった。

母は目覚めそうになかったし、起きた時に初やシゲちゃんじゃあの人を止めることができないからね、先生に部屋に残ってもらって、俺と初とシゲで多恵さんを探すことにしたんだ。

すぐに見つかったんだけどね」


「カフェスペース……ですよね」


「うん。そこで大量の睡眠薬を飲んで横になっていたんだ」


睡眠薬を?

多恵さんはもしかして……

わたしの顔を見た快さんは黙って頷く。


……自殺。


殺されたわけじゃなかったんだ。


「とても怖がりな人だったからね。知ってたのに……限界だって」


快さん、神原さんの顔に色濃く滲んだ感情は、恐怖からのものじゃない。

後悔、だったんだ。


「……情けないけどね。どうしていいかわからなくなってた。
三人を探さなくてはいけない。でも、雪は違うとしても、蜜花ちゃんや椿は……自分の意志でいなくなったんじゃないだろうか。
そんな風に思い出したんだ」


快さんが言いたい事は良く分かる。

部屋があらされているわけではなく、ただわたしと椿さんの姿だけがなくなった部屋。

二人で逃げ出したと思われても無理はない。


「ごめんね」


「いえ、謝らないでください。そんな、誰かに連れ去られたなんてわかるわけないですし……」


「いいや、違うよ。蜜花ちゃんが雪を連れて戻ってきてくれた時に言ったと思うけど、疑ったんだ。

今回の事は、蜜花ちゃんがやってるんじゃないかってね」


快さんの言葉がわたしの心に深く突き刺さった。

わたしを見つめる快さん、神原さん、そして初ちゃんの視線が急に余所余所しく感じる。

ただ一人、強い敵意をもって睨みつけてくるシゲさんだけは、その疑いが継続しているような気がした。