地の棺(完)

神原さんは額に左手をあてたまま俯く。

言葉を待つ間のこの時間が、わたしの不安を更に掻き立てた。


「多恵さんがいないことに気が付いたのは私でした。

一通り調べを終えて秋吉さんの元に行こうとした時、屋敷の角に立っていたはずの多恵さんがいなかったんです。

お手洗いならば一声あると思いましたし、ひょっとして秋吉さんの方でなにかあったのかとすぐに裏庭へ行きました。

しかしそこには秋吉さんの姿しかなく、彼もまた多恵さんがいなくなっていたことには気付かなかったんです。

私達のすぐそばで、しかもなんの音もたてることなく消えた多恵さんに強い不安を覚えました」


多恵さんがいた場所がどこかはすぐにわかった。

真紀さんの悲鳴が聞こえて庭に飛び出した時、屋敷と洋館の境目から極端すぎるぐらいに和と洋で庭の雰囲気が変わっていた。

両方の庭が見渡せる場所というとそこしかないように思う。

でも……あそこからだと二階から落下した真紀さんの姿は見えなかったし、裏庭も全体見渡すには厳しい。

死角が多いのだ。

たぶん、神原さんはわたしが言いたいことがわかったのだろう。

辛そうに伏せられた眼には再び涙が浮かんでいる。


「ええ。僅かな時間でも離れるべきじゃなかったんです。

私と秋吉さんは屋敷に戻るとすぐに快さんのところに向いました」


「そこからはまた俺が話すよ」


神原さんの様子を見ていた快さんはこれ以上は耐えられそうにないと判断したのか、話に割って入った。

神原さんは頷き、クローゼットに背を預ける。