「はい。周囲はすぐに暗くなってなにも見えなくなりました。

偶然手にした木の棒を使いながら、暗闇の中を慎重に進んでいくと、この屋敷の裏にある崖に出たんです。

そこからやみくもに屋敷を目指し、ようやく光を見つけて……戻ろうとしていた途中で、雪君を見つけました」


「雪はどこにいたの?」


「屋敷の裏庭から少し離れたところです。
たぶん桔梗さんのものだと思うんですが、切り刻まれた髪の毛に体を覆われた状態で倒れてました」


「そっか……」


「雪君はどうですか?」


快さんははっとしたように顔を上げ、上体を起こして深く頭を下げた。


「ごめん。ちゃんとしたお礼が遅くなって。
ありがとう、蜜花ちゃん。雪をここまで運んでくれて。
意識はまだ取り戻してないけど、一応先生に診てもらったら、とくにこれといった怪我はないらしい。
体温がかなり低下していたから、あのまま外にいたら低体温症で死んでいたかもしれないと言われて……

なのに、母の暴走をとめることもできなくて……」


「あ、いや、頭を上げてください! こんな状況ですし、勘違いされても仕方ないと思います」


わたしは慌てて快さんの前に移動すると、快さんは首を横に振った。


「いや、そういう問題じゃないんだ。根本的に俺達は君に謝らなければいけない事ばかりで……

そのことも含め、君がいなくなった時の話をしたいと思う」


「ちょっ、快。まさか……」


「いいんだ。初。親父もいないし、俺が話すべきだと思うから」


意味深な会話に不安を感じる。

内容から姉に関係する話だと思った。

そしてそれは、恐らくわたしには語られるはずがなかったものだと。