それが面白くて、吹き出しそうになる。

必死にこらえて、首を左右に振った。


「大丈夫。こっちがいいから」




自分が今どんな状況に置かれているか忘れてしまう程の、つかの間の穏やかな時間。

悲しみも、苦しみも、痛みも。

全て頭の隅に追いやることで、わたし達はぎりぎりのところで踏ん張っていた心を癒そうとしたのかもしれない。

缶詰を食べ終わるまで、わたし達はたわいもないことを話しては笑った。

気丈に振る舞おうとしている快さんも、悪態ばかりつくくせに優しい初ちゃんも、後悔と自己嫌悪で消えてしまいたいわたしも、これから先、残酷な現実を知らなければいけないとわかっていたんだと思う。

缶詰を食べ、ミネラルウォーターで喉を潤したわたしと初ちゃんを見ていた快さんは、クローゼットのパネルドアを背にしたまま目を閉じた。

ゆっくりとだが、再び瞼を開けた時、その顔からは先ほどまでの穏やかな笑みは消え去っていた。


「そろそろ……本題にはいろうと思う」


覚悟はできていたはずなのに、快さんの言葉に動揺する。


聞きたくない。
でも、聞かなければいけない。

頷くと、快さんはわたしと初ちゃんの顔を交互に見た。


「まずは蜜花ちゃん。君がどこでなにをしていたのかを話してほしい」


いつもとは違う真剣な快さんの眼差し。

わたしは胸元の鍵を握りしめ、口を開いた。


「この部屋で椿さんと話をしていたら急にミントの香りがして、そのまま意識を失いました。

目が覚めた時はムカデが、体の上を這っていて……自分が山の中に寝ていることに気が付いたんです」


「山の中?」