すぐに分かった。

まるで絵画のような桜の押し花。

桜の木の皮を枝と見立て、しだれ桜を生前の姿そのままに閉じ込めてある。


「ここは柚子さんが使用していたお部屋です」


姉さんが……


部屋の中を改めて見回す。

姉の気配を求めて。

でも押し花以外、それらしいものはなかった。


「夕食は七時からです。
それまではゆっくりしてください」


雪君はにこりと微笑み、部屋を出ていった。


音をたてないように扉はそっと閉じられる。

一人になると、肩の力がすっと抜けた。

そのまま絨毯の上に座り込み、押し花を見つめる。

勢いだけでここまで来てしまったけど、心配しているであろう両親のことを思い出し罪悪感で胸が痛んだ。

三年の間、普通の人よりも速いスピードで時代の変化を受け入れようとしてきたけど、一度に情報を詰め込み過ぎてもいけないと、主治医により携帯を持つことは禁止されている。

後で電話を借りて、無事に到着した事だけでも連絡しようかな。

そうしないと明日にでも迎えにきそうだし。

わたしは立ち上がり、段ボールに手を伸ばした。

中には着替えと下着しか入っていない。

それらをクローゼットに入れ、ベットに寝そべる。

化粧直ししたほうがいいのかな、でもめんどくさい……

大人って面倒だな、なんて思いながらゴロゴロとしていると、ノックの音がして慌てて起きあがった。


「はい! 開いてます」