快さんは額に両手を充て、何度も頭を左右に振った。

その姿になにも言えなくなる。

わたしは恐る恐る桔梗さんの隣に移動し、床に膝をついた。

顔をあげた桔梗さんの鼻から下半分は、鼻血で赤くなっている。

わたしを睨みつける目から流れた涙で、床に薄紅の滴が落ちた。


「桔梗さん。雪君を早くベッドへ運びましょう? かなり体が冷えてるから温めてあげないと……」


桔梗さんはわたしの言葉に目を見開いた。


「あなたが……あなたが……雪を……」


わたしが?


「違います。わたしは……部屋にいたのに、いつの間にか寝てしまったみたいで、気が付くと山の中で寝てました。
自分で移動したのか、誰かに運ばれたのかわかりません。
屋敷に戻ってくる途中で雪君を見つけて……」


桔梗さんは自分の頭に触れ、首を左右に振る。


「嘘よ。あなたは……私達を薬かなにかで眠らせて……そして私の頭をこんな風にして、そして雪を殺そうと……」


「違いますっ わたし、そんなことしてません」


「いいえ……いいえ、違わないわ。あなたは私達を恨んでるはずですもの。だからここに来たんだわ」


恨む?

桔梗さんとの会話が成り立たない。


「桔梗さん。椿さんはどこですか? わたし、意識がなくなるまで彼女と一緒にいたんです。椿さんは……」


「その名前を口にしないでっ!!」


落ち着きを取り戻したかに見えた桔梗さんが、再び荒々しく叫んだ。

ふうふうと興奮しているのか、息が荒い。


「あなたもあなたの姉もその女も、汚らわしいっ 汚らわしいっ 汚らわしいのよっ!」