「……ここにいて」


快さんはそう言うと、シゲさんの後を追い、部屋の中に入っていく。


「蜜花さん……」


多恵さんが初ちゃんにしがみついたまま、涙でぐしゃぐしゃの顔をさらに歪める。

わたしもそのただならぬ雰囲気にのまれ、声が出せない。


快さんとシゲさんはすぐに出てきた。

しかしそこに亘一さんの姿はない。

そのまま快さんは、部屋の扉を後ろ手に閉める。

二人とも、目は充血したように赤いのに、顔は真っ青だった。


「あの、中でなにが?」


しびれをきらしたのか、神原さんが尋ねる。

シゲさんはちらっと神原さんを一瞥したが、なにも答えない。

いや、答えられないといった表情だった。


「……ここは外から封鎖するよ」


予期しなかった快さんの言葉に、多恵さんは慌てる。


「快坊ちゃん、料理……食事はどうするんですか?
厨房にいけませんよ?」


先ほど桔梗さんに食事の用意を頼まれたこともあり、かなり困惑した様子の多恵さんに、快さんは苦笑する。


「一階に多恵さんたちが使う簡易キッチンがあるよね?
そこを使おう。
食料も一週間分くらいならあったはずだから」


快さんの言葉に、多恵さんは「はぁ……」と曖昧に頷き、口をつぐんだ。


「これからは一人にならないように、常に誰かと行動を共にすることにしよう。
部屋は……蜜花ちゃんは多恵さんと一緒に四号室に。
シゲちゃんと先生は三号室に。

とりあえずそれでいいかな?」


快さんの提案に、それまで無言だった初ちゃんが手を上げた。


「僕はどうしたらいいの?」


初ちゃんの発言に驚き、思わずその顔を見つめる。


「なに?」


初ちゃんは不快そうな顔で眉を寄せた。


「あ、ご、ごめんなさい」


慌てて謝ると、面白くなさそうに顔を背ける。

意外だった。

真紀さんが死んだ時、初ちゃんはゲームを楽しむ子供みたいに笑ってた。

でも今の初ちゃんは……怖がってる?