「ね? 先生、よろしくお願いしますね」


そう言うと桔梗さんは神原さんの返事も聞かず、さっさと立ち去ろうとした。


「待ってください」


それを止めたのは快さんだ。

快さんは真剣な表情で、桔梗さんの前に立ちふさがる。


「状況を理解してますか?
食事の問題じゃないでしょう?」


桔梗さんは面倒くさそうに、快さんを見上げた。


「言いたいことははっきりと言いなさい」


「じゃあ遠慮なく。お気づきですか?
今のような状態を続けていると、犠牲者が増え続けるということに」


「じれったいわね。
はっきり言いなさいと言ったでしょう?」


快さんを睨み付ける桔梗さんの目は、雪君に向けるものと全く違う。

他人を見るような、冷たいものだった。

しかし快さんは気にする様子もなく、淡々とした口調で続ける。


「警察が来るまで、皆がバラバラになるのではなく、まとまって行動した方がいいんじゃないですか?

その方が犯人も手出しできません」


「嫌」


即答。

きっぱりとした拒絶に、快さんは不快そうに眉を寄せた。

シゲさんの舌打ちが響く。

神原さんも多恵さんも、狼狽しながら二人のやり取りを見ていた。


「……何故ですか?」


「理由が必要? 言ったでしょう?
わたしは家族を疑わないと」


「家族ではなく、それ以外に犯人がいるのなら?」


「それでも返事は同じよ。
貴方たちが身を寄せ合うならば好きにしなさい。
多恵さん、話がまとまったら朝食を部屋に届けてね」