桔梗さんはわたしを見てくすっと小さく笑った後、すぐに快さんに向き直る。


「なにかあったの?」


「中で千代子さんが……死んでます」


快さんは簡潔に説明した。


「千代子が? ……そう」


桔梗さんは一瞬驚いた表情で目を見開いたが、口元を袖で隠し俯いた。

そのまま無言で部屋の中へと入る。

入れ替わりに初ちゃんが出てきた。

初ちゃんの顔からは血の気がなく、今にも倒れてしまいそうなほどに白い。

桔梗さんもすぐに出てきた。

険しい表情で、口元を抑えている。


「悪趣味だ事」


そういうと、今だ床に座り込んだままの神原さんを見た。


「先生。これじゃあ食事ができませんから、あれ、どこかに移動してくださいません?」


桔梗さんの突拍子もない言葉に、神原さんは顔面蒼白になり首を勢いよく左右に振った。


「な、なにを言われてるんですか!
警察が来るまで動かせませんよっ!」


「いやだわ、先生。
警察なんていつ来るんです?

それまであんなもの置いておけるわけないじゃないですか。

餓死しちゃう」


耳を疑った。

千代子さんをあんなものって……

桔梗さんは大きなため息をつく。


「本当、最後まで迷惑をかける人だこと。多恵さん、あなたも困るわよね?
あの上に料理が並べられて?」


いきなり自分に話を振られた多恵さんは、目を剥き、痙攣するように震えた。