「お二人ともーー
暗くなってしまいますよーー」


立ち止まったままのわたし達に気づき、先を歩いていた多恵さんが大声で言った。


「足、大丈夫ですか?」


「うん。けっこう休めたから」


靴ずれは痛いが、歩けないほどではない。

わたし達は、多恵さんのもとへ足早で向かった。

これからが本番なのである。

志摩家に滞在するのは一週間。

その間に姉と親交があった人物を探し出し、送られてきた鍵が何の鍵なのか調べたい。

できれば、誰が送ってきたのかも。

わたしはその人物が姉の恋人だと思ってるけど、そこまで探し出せるかどうか。

確かな決意を胸にやってきたはずなのに、夜の気配を感じ、心細くなってきた。

並んで歩く雪君の優しい微笑みに励まされ、一歩一歩踏み出す足とともに、自分に言い聞かせる。


大丈夫。

きっと見つかる、って。


この緑の色濃い山の景色も、小石がごろごろした山道も、苦手だなんて言ってられない。



多恵さんは、坂道を登り切ったところで待っていてくれた。

二人はわたしのペースに合わせて、ゆっくりと歩いてくれる。

そこから200メール程進んだ先に、今までの景色から一変して、よく手入れされた芝生による緑の絨毯が現れた。

芝生は広範囲に広がり、周りには色とりどりの花で飾られた花壇がある。

庭、というにはとても広く、ちょっとした公園のようだ。

芝生の中央には石畳が敷かれており、その先に一際目を引く洋館が建っている。


あれが……志摩家。


煉瓦調の外壁で造られた西洋の館。

家というより、高級レストランみたいだというのが、わたしの第一印象だった。