瞼が重くなるほど泣いた。

わたしを呼び寄せた、誰かのことまで恨みながら。

雨音が子守音になったのか疲れからか、うとうとと眠気がおそう。

ベッドに移動して電気も消さなくちゃ。

そう思ったけど、体に力が入らなくて、そのまま床に頬をつけ目を閉じた。




夢と現実の狭間を意識が彷徨っていると、僅かにミントの香りが漂っていることに気付く。


そういえば時折、部屋の中でこの香りを嗅いだ。

部屋に芳香剤はないし、どこから匂って来るんだろう。

爽やかな香りに、悲しみに荒れた心が落ち着きを取り戻す。

このまま気持ちよく眠れそう。

そんなことを考えていると、首筋にひやりとした感触があった。


冷たい、誰かの手?


うっすらと目を開けようとした。

でも腫れた瞼が持ち上がらない。


冷たいその手は、ひりひりと痛むわたしの傷口を癒すように撫でた。


これは夢?


この屋敷に、こんなに優しい手を持つ人がいたのかしら?


雪君?

でも彼はさっき桔梗さんと出て行った。

快さん?

多恵さん?


誰も違う気がする。


もしかしたら……


「姉……さん?」


呼びかけると、手の動きが止まった。

わたしの意識があることに驚いたのだろうか?

その問いに返事はなく、首元から手が離れた。


いかないで。


もう少し一緒にいて。


言葉にできたかはわからない。