「島の人々は土地神の加護によるものだと思いました。
だから土地神を敬い、崇め祀ってきたんです。何百年も」


「その神様が女性を……?」


雪君は静かに頷いた。


そんなことが……ありえるんだろうか。


「雪君、信仰ってわたしにはよくわからないよ。
なにかを信じることで救われる人っていると思うし、わたしも神様に願掛けをしたこともある。
でも神様って人の幸せのために存在してるんじゃないのかな?」


雪君は首を傾げ、苦笑する。


「僕も詳しいわけではありませんが、必ずしもそうだとは思いません。
神と呼ばれる存在には様々な種類があるんです。
蜜花さんが言われたように人の幸せのために存在している神もいれば、人を呪う神もいる。
人を生みだす神もいれば、人を喰らう神もいる」


人を……喰らう?


「なんで……なんでそんな神様が? だって、神様ってもっと……」


「いるんですよ。神は決して良いものではないから」


雪君の声が低く、響いた。

その声色にわずかな恐怖を感じる。

雪君の目がまっすぐにわたしを見据え、捕らえた。


「加岐馬の土地神は、島民に豊かな土地をもたらした。
しかし、その見返りとして生贄を求めるんです」


生贄。

室温が一気に下がった。

雪君の声が、表情が、色を、温度を失くしていく。

非、現実的なその言葉にわたしはのまれてしまった。

雪君はわたしの異変に気付いたのか、ふっと表情を和ませる。


「幼子に言い聞かせる時に語られる話です。
悪い子は、土地神様に食べられるぞって。
僕もよくそう言われました。

そうして僕達は島の土となり、地となると」