男性は右手で前髪をかき上げる。

現われた顔を見て、思わずドキッとした。

くっきりとした二重に形の良い鼻。
薄い唇は笑みをたたえている。

柔らかな眼差しは、どこか雪君に似ていた。


「ああ、話は聞いてる。
森山……蜜花ちゃんね」


軽い口調。
雪君と似ているのは、外見だけみたい。


「加岐馬島にようこそ。
俺は志摩快。快さんって呼んでね」


そう言って微笑んだ男性を見ながら思った。

二十代後半くらいだし、姉の恋人ってこの人だろうか?

でも初対面で、いきなり聞くのは、とてもためらわれる。

姉さんの恋人ですか?

いや、姉さんの恋人だった人ですか?

みたいな。

不躾にもほどがある、か。

いつか聞こう、そう結論を出し、顔を上げると、快さんと目が合った。

長いこと見られていたみたいで。


「あの……?」


恥ずかしさから頬が赤くなる。

快さんは首を左右に振った。


「はぁ……だめだ。十代は受け付けない」


一瞬何を言われたかわからなくて、通訳を求め、雪君を見る。

雪君は困ったような顔をして、俯いた。


「魅力ある熟女になってね」


非常に気になる言葉を発した後、快さんは多恵さんにウインクし、そのまま去っていった。

山道をすたすたと上っていく快さんの後ろ姿を見ながら、多恵さんは嬉しそうにその後に続いていく。


呆気にとられていると、雪君が隣りで頭を下げた。


「あの、すみません、蜜花さん。
兄は年上の女性が好きというかなんというか……」


必死でフォローしてくれるが、特に気にしていないので笑って返す。