「ハイジになる年齢が高ければ高いほど、スラムに順応できない」
「……、」
「──場合が多い。賢いササライなら、この意味がわかるだろ?」
ヨイの声が低くなった。
確かに年齢が上がれば上がるほど考えが固執するだろう。
捨てられた喪失感、ハイジというものに対しての偏見、生理的な拒絶。
賢くなった人間は、一方で耐性が脆弱になる。
「どうして捨てたかなんて、そんなの本人にしかわからない。だけどその本人はいない。答えはわからない。そんな答えのないものを考えたって意味がないんだ。ここに来たからには、明日どうやって生きるかの方がよっぽど重大だ。
いいか、ササライ。お前には生きるためにそんなに余裕はないはずだ。外への執着は捨てろ」
ギラリと野性的に眼を光らせたヨイが凄む。
迫った視線を反らすことができないまま、コクリ、と唾を飲み込んだ。
「頼むぜ、坊っちゃん」
ヨイは視線に余韻を残しながら、また歩き出す。
寄ってきた子供たちに明るく笑いかけながら、何事もなかったように「ササライ、」と名前を呼ばれ、俺は再び高い背中を追い掛けた。



