青いフェンスを潜ると、ムワっとした異臭が鼻をついて顔をしかめた。
 胃の底から競り上がってくるものを感じ、足を止めて持っていた袋に顔を埋めてやり過ごす。
 衝動的に涙が溢れてきた。

 最悪だ。

 生きるか死ぬか?
 こんなところで、生きられるのか?
 慣れれば快適?
 こんなところに慣れろだって?
 それが、一番難しい問題ではないか。


 父さん。母さん。俺はそんなに駄目な子供だった?




「ササライ、」


 呼ばれて、一瞬自分のことだと認識できず、数秒。
 ヨイは構わず話し出す。


「あんまり掘り返したりはしたくはないけど、ひとつだけ言っておきたいことがある」


 歩幅を緩めて俺が隣にくるのを待つように、肩越しに振り替える。


「ハイジは基本的に小さい子どもが殆んどだ。だいたい、生まれたばかりの赤ん坊から大きくても10歳未満くらい。俺が捨てられたのも5歳くらいだったらしい」
「……。」
「つまり、お前は珍しいパターンだってこと。見た感じ身なりも悪くないし、賢そうだし、温室で育ちましたって感じ」


 不躾な物言いに、俺は眉間を寄せてヨイを見上げた。


「はは、悪いな。ヤマトやイチイには良く口が悪いって怒られるんだ──まぁ、聞きな。
確かに珍しいケースだけど、全くない訳じゃない。むしろ最近少しずつ増えてきてる。それがどうしてかは、俺が考えたってわかることじゃないからそんなに気にしてないけど。ただな、」


 ヨイは足を止め、改めて俺に向き直る。
 つり上がった目が細められ、一瞬口を閉ざす。
 視線は反らさず、顎を上げた。