俺をここまで運んできた青年はヤマトといった。
 そして、俺のことをササライと呼んだ。
 ハイジになったとき、子供は元の名前を断つらしい。
 儀式のようなものかもしれない。


「ヨイ、ササライだ」
「ヨイだ。よろしく」


 ヤマトは俺たちを迎えたヨイという紛れもないスラムの住人に俺を引き渡すように紹介をした。
 黒い布を頭に巻いた、つり目の背の高い男だ。
 大人というには少し若い。


「最初はちょっと大変かもしれないけど、大丈夫。ちゃんと慣れるさ。慣れれば案外快適だぜ。歓迎する」


 ヨイは笑って言った。


「ヨイ、イチイは?」
「今、穴堀(あなぼり)」


 俺がひとつずつ考える間もなく、ヤマトもヨイもどんどん話を進めていく。
 ヤマトは乗ってきたジープに積んでいた箱を持って、なんの躊躇もなくフェンスの中へ入って行った。


「イチイは、ここの親──えーと、つまり、ここの保護者っつーか。保護区域では必ずそういうのがいるんだ。後で紹介する」


 そう話しながら、ヨイもヤマトが持ってきた荷物を運び出す。
 かなりの量だ。


「食べ物。これがないと俺たちは生きられないんだぜ」


 手伝って、と、積んであった俺の小さなバッグと麻袋を押し付けると、ヨイもヤマトの後を追う。
 俺は手の中の麻袋に視線を落とすと、はめられた気分で仕方なくその背中に着いて歩いた。